このページでは総研大博士課程を修了して、現在ニールス・ボーア研究所ポスドク研究員として活躍されている中村 真さんに総研大について自由に書いていただきました。
「総研大での研究生活を振り返って」
ニールス・ボーア研究所ポスドク研究員 中村 真
(1997年4月 総研大博士課程入学)
私は1997年4月に総研大博士課程に入学し、はじめの2年間をKEKで総研大生として過ごしました。総研大生としての残りの期間は指導教官の転出に伴い京都大学理学部にて過ごし、博士号取得後は京都大学基礎物理学研究所、KEK、理化学研究所にてポスドク研究員を経験しました。現在はデンマーク・コペンハーゲンにあるニールス・ボーア研究所にてポスドク研究員(仁科記念財団海外派遣研究員)をしています。
このように複数の研究機関に所属してきた経験を踏まえながら、KEKでの総研大生活を振り返ってみたいと思います。幸いなことに、私が今まで所属してきた 研究機関はどれも素晴らしい研究機関であったと言えます。しかしながら、各研究機関それぞれに特色や長所が異なるのも事実です。それでは総研大としての KEK、研究機関としてのKEKの特色とは何でしょうか。
KEKの第一の特色は、非常に大きな共同利用研究所であるということです。これには大きなメリットがありました。このような大きな研究所には必然的に全国から研究者がやってきます。私の入学時も、ポスドク研究員や受託研究生として全国各地の若手研究者がそこには集まっていました。またセミナー講師や短期ビジターとしてKEKを訪問する研究者もかなりの数に上ります。私は総研大入学時以前は異なる研究分野(実験物理学)に所属していましたので、これから始める新分野で多くの知り合い研究者を作っていくにあたり、全国各地の研究者が集まるKEKは絶好の場所でした。私はKEKに所属していたおかげで、新しい研究分野に研究面以外でも早くなじむことが出来たと思っています。そしてKEK時代に培った人脈は現在でも大きな財産となっています。
また、研究室の規模の大きさは、私の視野を拡げることにもなりました。私の専門の素粒子理論の研究内容を大きく3つに分けると、弦理論、現象論、格子ゲージ理論の3つに分けることが出来ると思いますが、通常、人数の少ない研究 室ではどうしても全ての研究内容をカバーすることは難しくなってきます。しかし、ここKEKでは上記いずれの研究グループも健在で、それぞれ非常に精力的な研究活動をしています。KEKのように規模の大きな研究室に所属していたおかげで、各分野の研究の話を比較的偏りなく耳にすることができたと私は思います。私は結局弦理論の研究に進みましたが、弦理論に進んだ後も、セミナーなどで現象論、格子ゲージ理論の最新の話題をコンスタントに耳にできたことは、研究上の視野を保つ意味で大きく役立ちました。
研究面以外でもKEKでの学生生活は実に愉快でした。KEKは都会の雑踏とは無縁の場所に存在しています。自然の中での生活を好む私にとって、緑豊かなこの地での生活は心を落ち着かせてくれました。また、KEKは非常に大きな実験施設ですので理論物理学以外の研究者も当然多数勤務しておられます。そういった方々とも昼休みのジョギング等を通して交流することができ、つくばマラソンへの参加や、筑波大のカヌー教室への参加など地元とのかかわりあいも広がりました。
このようにKEKでの総研大生活は、他の研究機関在籍時と同様、あるいはそれ以上に、今でも楽しく充実した想い出として残っています。もちろんこうした環境をどのように利用するかは皆さんご自身にかかっているのですが、これだけは言えると思います。それは、KEKには皆さんの研究生活を快適で有意義なものにするだけの材料がゴロゴロ転がっている、ということです。 |