このページでは総研大博士課程を修了して、現在プリンストン高等研究所のポスドク研究員として活躍されている北野龍一郎さんに総研大について自由に書いていただきました。
「総研大のススメ」
プリンストン高等研究所ポスドク研究員 北野 龍一郎
(1999年4月 総研大博士課程入学)
総研大を卒業して2年経ちますが、今振り返ると在学中は本当に楽しかったです。これから総研大に入ろうと考えている、あるいは悩んでいる方々のために、 在学中の思い出を交えつつ、つくば生活を紹介したいとおもいます。参考になれば幸いです。
まず、私が入学したのは1999年の4月です。初めてつくばにやってきた時、なんだか外国に来たような気分でした。どこまでもまっすぐにのびた東大通、大きなスーパーに、豊富な駐車スペース。一生に一度ぐらい住んでみるにはなかなかよいところです。生活していく上でストレスがたまるようなことはありませんでした。私なんぞは、リラックスしすぎて、つくばに来た後、結婚したうえに、長男まで作りました。かといって、田舎すぎることもなく、コンビニもあるし、1時間半もバスに乗れば東京に繰り出すこともできたので不便ではありませんでした。休日などは、車で1時間ぐらい走って那珂湊まで行くとおいしくて安い寿司が食べられたのがまたよかった。
さて、本題の研究生活の方を紹介したいと思います。私は素粒子理論の現象論の分野に興味を持っていました。KEKにはその分野で、おそらく日本(世界?)最大規模の研究室がありますので、総研大の学生になると大きな研究室にいる利点に恵まれます。まずは、最先端の研究をバリバリしているスタッフ陣とたくさんの研究員の方々はとても頼もしい存在でした。研究所という性質上、学生を獲得することが容易でないからか、スタッフはことのほか総研大生を大事に扱い、教育に熱心です。入学後しばらくして共同研究をする機会がくると、私の指導教官は超多忙にもかかわらず、私との議論にかなりの長時間を費やしてくださいました。おそらく、睡眠時間を削っていたのでしょう。そのような研究態度を毎日見せつけられると、私の方も、負けてられぬと自然とやる気がでました。
また、スタッフのほかに当時、数十名の(ポスドク)研究員がいて、この人たちがまた、私に大きな刺激を与えてくれました。研究員の方々はまさに、研究者として油ののった時期で、第一線の研究をして毎年多くの論文を発表しています。隣の部屋とかにたくさんいますので、なにか質問にいくと懇切丁寧に教えてくれたり、また雑談していてもそれが発展して議論になったりで大きな収穫を得ることができます。(実際のところは、上下関係の麻痺した彼らが、学生相手に対等の立場で臨み、本気で攻撃してきます。)私もそんな議論の中から生まれたアイデアを基に研究員の方々と共著の論文をいくつか発表する機会に恵まれました。これがまず、大きな研究室にいる第一の利点です。
さらに、それだけでなく、質の高いセミナー、研究会などが頻繁にありますので、最先端の情報をいち早く得ることができます。また、同時に他の大学の研究者達との交流の機会があたえられます。それは刺激になるだけでなく、自分自身の研究していることを知ってもらう良い機会となります。
大きな研究室にいると心配になるのは、自分の存在が薄くなってしまうことかもしれません。しかし、前にも述べましたとおり、総研大生は特別扱いです。結果がでない間は苦しいでしょうが、決して見捨てられることはないと信じています。信頼できる指導教官の助言や指針は苦しいときには本当に貴重です。
と、一通り、褒めちぎっておきました。そろそろ、総研大候補生にとって気になるであろう点について言及しておこうと思います。まずは、総研大の知名度です。研究室の規模や質は東大や京大よりも良いぐらいなのですが、知名度が比べ物にならないことは、志望校選択においてマイナス要因となっていることだろうと思います。ですが、よくよく考えてみると、まず、同業者の中での知名度は低くありません。ある意味、研究室自体が有名なのだからあたりまえです。次に、現在、学問は世界を舞台に発展しているのであって、日本での知名度を心配するのは視野が狭いというものです。実際、東大、京大を出たって世界ではすこしも自慢にはなりません(どちらかというと悲しい事実ですが)。そもそも、研究活動をしていくと、大学の知名度よりも、自分自身の知名度の方が気になってきますのでどうでもいいことなのです。
それから、卒業後の進路も気になるところでしょう。学位取得後、研究者として研究活動を続けている卒業生は、歴史が浅いにもかかわらず、これまで多数います。しかし、こればっかりは、どこの大学でも同じで、学位が取れるかどうか、その後、研究職を得ることができるかどうかは、すべて学生の能力とそれまでの実績によって判断されます。裏をかえせば、誰でも能力があれば生きていけるということです。総研大出身がよいとか悪いとかはありません。
私自身、総研大に入って本当によかったと思っています。3年間じっくり研究できましたし、色々な優秀な研究者の方々の影響を受けることができました。それだけでなく、学生の時期に研究室を移ることは本当に重要なことだと思います。同じ研究室に居続けると、やはり視野も狭くなりますし、他の研究者との交流範囲も狭くなります。心理的にも、研究室が変わると、新たなやる気が出てきますので、良いことだと思います。
本気で研究者を目指す学生の方々に、総研大に入って欲しいと思います。どうせ外には何も無いので研究に集中するにはもってこいの環境ですし。だいたい、こんな良質な研究室に博士課程から入ることのできる制度を利用しない手はありません。総研大生の皆さんには、是非、物理学の発展に貢献する喜びを感じて欲しいと思います。
なお、2006年度から学部卒からの入学が可能になると聞きました。学部卒業で一区切りつけることは、研究者を目指す場合、自然で理想的な形です。学習・研究するにあたって、博士号取得という一貫した目標ができ、また、教育する方もゼロから博士号までという、始点終点のはっきりした任務でやりやすいことでしょう。これで、総研大素粒子原子核専攻は、制度の面で他の大学院と肩をならべ、最高の環境、一流のスタッフ陣をもつ、より強い大学院となりました。将来が楽しみです。
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