総研大(大学院)素粒子原子核専攻
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THEORY GROUP
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研究内容
格子ゲージ理論

素粒子の基礎理論としての場の理論

素粒子の基礎理論は、場の理論を使って記述されます。では、場の理論のラグランジアンを与えれば素粒子理論はおしまいでしょうか。いいえ。私たちにはまだ理論を解いて素粒子の様々な反応を計算し、実験と比較することで理論を実証するという大仕事が残っています。

場の理論は無限個の自由度をもつ非線型系ですから、それを「解く」というのは実に大変な作業です。ある場合には系のもつ対称性のおかげで理論が解けてしまうことがあります。また、ある場合には興味のある現象が、理論に含まれる小さなパラメタに関する展開(摂動展開)で充分よく近似できて、それで満足できることもあります。しかし、より一般には、場の理論を解くことはとても困難で、素粒子原子核物理の理論家の仕事の多くは、この解けない問題と格闘することだと言ってもよいでしょう。

場の理論を第一原理から「解く」

こうした状況で私たちができる事の一つは、数値計算を最大限に利用して場の理論を「解く」ことです。具体的には、格子上の場の理論を考えて、その計算機シミュレーションを行うことで、摂動展開に頼ることなく場の理論から結果を導き出します。もちろん、無限自由度の系をすべて計算機で扱うことはできないので、いろんな近似を用いる必要があります。また、数値計算のための特別なテクニックを学ぶ必要があります。ですが、他の多くの理論家があきらめてしまっている、場の理論を第一原理(ラグランジアン)から出発して解く、ということにはそれに見合うだけの価値があると思います。

一般に場の理論といってもいろんな理論がありますが、KEK理論系では特に、量子色力学の研究が精力的に進められています。量子色力学はクォークとグルーオンのダイナミクス(強い相互作用)を支配している基礎理論です。量子色力学(QCD)では、低エネルギーで結合定数が大きくなり、摂動展開ではあらわすことができない現象が、測定器のなかで、そして現実世界のあらゆるところで、実際におこっています。例えばBファクトリー実験のような素粒子実験の測定器のなかでは、実に様々な反応が起ります。クォークが関わるような反応では、QCDを解くことで理論の予言をあたえる必要がありますが、QCDを非摂動的に解くことができるのは、今のところ格子理論のシミュレーションをおいて他にありません。

スーパーコンピュータ

格子理論のシミュレーションは、膨大な計算量を必要とします。世界最速のスーパーコンピュータをもってきてもすぐに食いつくしてしまうほどの計算量です。このために、私たちはKEKに設置されている世界でも有数の性能を誇るスーパーコンピュータ(下の写真参照)を使って研究をすすめています。

格子QCD専用計算機

こうした市販のスーパーコンピュータでの計算と平行して、格子QCD数値計算専用の計算機を制作して研究に使用するプロジェクトが、理化学研究所および米国コロンビア大学とブルックヘブン国立研究所と共同で進められています。まず、1997年から1998年にかけて、格子QCD専用計算機QCDSP(QCD with DSP)が制作されました。これは安価で高性能なディジタル信号処理装置(DSP)を1−2万台並列に使用できるようにしたもので、通信およびメモリー管理用の専用集積回路を開発・制作することで実現した1TFlops級の専用計算機です。これにより、格子上では従来不可能だったカイラル対称性の厳密な取り扱いがはじめて可能になりました。カイラル対称性は、ハドロン物理学の特徴的な性質で、ハドロンの質量や崩壊などの性質を格子QCDで記述する上で大変重要です。

さらにこの成功を受けて、QCDSP計算機の性能を20倍程度上回る新たな専用計算機QCDOC(QCD on a chip)計算機の開発も着手されました。2004年には設計が完了し、2005年3月現在、10TFlopsのQCDOC計算機3台が完成しています。(おのおの200枚ほどのマザーボードからなり、右の写真は左がマザーボード、右がマザーボード上に32枚あるドーターカードです。)これはQCDSPにおいて7個の集積回路で構成していたノードコンピューターを1個の集積回路に縮小し、さらに高速化することで可能になりました。この新しい計算機を用いる事により、より厳密な格子QCDの数値計算が可能になり、ハドロン物理学の研究が深まる事が期待されています。


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