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核子と原子核の構造関数とパートン分布
核子は基本粒子であるクォークやグルーオンから構成されていることは知られています。核子やその集合体である原子核をクォーク・グルーオン物理の立場で詳細に理解することは、現在の標準理論を超える現象を発見するために、重イオン核反応によってクォーク・グルーオンプラズマ状態を発見するために、さらに高エネルギー領域における核子や原子核の基本的構造のメカニズムを解明するために重要です。従来、原子核は核子や中間子を用いて記述されてきましたが、基本構成物質であるクォークやグルーオンから記述し、「クォーク核物理学」を展開することは原子核構造を新たに基礎的な視点から捉える意味で重要です。特に、本研究室ではクォーク・グルーオン分布関数に関する研究を行っており、研究の詳細をhttp://research.kek.jp/people/kumanos/ に記載しましたのでご覧下さい。
研究の一例として陽子のスピン構造について述べます。陽子のスピンは1/2であることは物理の学生さんならばご存じでしょうが、それがどのようにクォークやグルーオンのスピンから構成されているかは定かではありません。陽子スピンのような基礎的物理量の起源がわかっていないことは、ハドロン構造を確立する上で非常に不幸な事態です。図1のように、単純なクォーク模型では陽子を3つのクォークから説明します。クォークはスピン1/2の基本粒子ですから、2つのクォークのスピンが打ち消し合い、残り1つのクォークのスピンが陽子スピンを担うとすれば話は簡単です。しかし、偏極レプトン・核子散乱の実験によって、この定説を覆す結果が明らかになりました。それらの実験によればクォークが陽子のスピンを担っている割合は非常に小さく、クォーク模型の予測に完全に反する結果となりました。我々は世界中の偏極レプトン・核子散乱に関するデータを解析することにより、クォークよりもむしろグルーオンが陽子スピンの大部分を担っている可能性が高いことを指摘し、得られた偏極クォーク・グルーオン分布関数を他の研究者が利用できるように公開しました (http://spin.riken.bnl.gov/aac/)。しかし、グルーオン偏極に対する誤差が大きく、現時点では図2のように陽子スピンの起源を特定するには至っておらず、将来的な研究プロジェクトで特定することが必要となります。今後10年間、特にこれからの数年間に大きな発展が予想される分野です。
QCDの相構造
水は常温常圧では液体ですが、温度や圧力を変えてやると相転移を起こし、高温では気体(水蒸気)、低温では固体(氷)になります。強い相互作用の基礎理論である量子色力学(QCD)においても同様な相転移が起こることが理論的に予言されています。温度零、密度零の真空においては、色を持ったクォークやグルーオンは単独では存在できず、無色のハドロンの中に閉じこめられるハドロン相が現れますが、高温や高密度ではクォークやグルーオンが解放され単独で存在するクォーク・グルーオン・プラズマ相が現れます。また最近、低温高密度では、電子系の超伝導と類似な現象が起こり、カラー超伝導相が実現することが予言されています。さらに、ハドロン相とカラー超伝導相の間にカラー強磁性相が存在するのではないかとの予測もあります。有限温度・有限密度においてQCDがどのような相構造を持つかを決定することはハドロン物理の重要な課題の一つです。
ハドロンの構造と相互作用
ハドロンの構造や相互作用を強い相互作用の基礎理論である量子色力学(QCD)から理解することは、ハドロン物理の重要な課題です。これまでに知られているハドロンのほとんどはクォーク1個反クォーク1個からできているメソンかクォーク3個からできているバリオンに分類することができますが、最近、クォーク2個反クォーク2個やクォーク4個反クォーク1個からできていると考えられるエキゾチックなハドロンの発見が報告がされています。これらのエキゾチックなハドロンがどのようなメカニズムによって存在するかを明らかにすることによって強い相互作用、特に閉じこめのより深い理解につながると期待されます。 |