ハドロン物理学。陽子、中性子、中間子のように強い相互作用をする素粒子を総じてハドロンと呼ぶ。ハドロンはクォークとグルーオンから構成されている。クォークとグルーオンの物理は量子色力学(Quantum Chromodynamics=QCD)に従う。このQCDからハドロンの質量や遷移行列要素をもとめるにはKen Wilsonによって創始された格子上の場の量子論の方法による数値計算が必要である。これが格子QCD数値計算である。従来の格子QCD数値計算では、ハドロン物理学で重要なカイラル対称性を十分正確に記述することができなかったが、理研BNL研究センターとコロンビア大学との共同研究によって開発した1TFlos (TFlops=Tera Flops=1012 Flops=毎秒1兆回の浮動小数点数値計算を行う計算速度)級のQCDSP(QCD with DSP)と10TFLops級のQCDOC(QCD On a Chip)専用スーパーコンピューターによって、Domain Wall Fermions (DWF)法という、5次元の格子を用いる方法によりこの困難を解決した。現在はこの手法を用いてK中間子の崩壊過程に現れるCP対称性非保存に関わる遷移行列要素やハドロンの構造に関する数値計算を行っている。